産業廃棄物の収集・運搬は、誰でも自由に行えるものではなく、専用の許可を持った業者だけが、その業務を行うことができます。
産業廃棄物の収集運搬を行うために必要となる許可や、その許可が不要とされるケースについて、解説していきます。
そもそも産業廃棄物ってなんだろう?
廃棄物とは、「自ら利用し、又は他人に有償で売却することができないために不要になった物」で、廃棄物に該当するかは「その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意志等を総合的に勘案して判断すべきものであること」と定義されています。
また、これらの廃棄物は性状や毒性等により所管する法律が異なっていますが、ほとんどの廃棄物は、廃棄物処理法により規定され、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」と定められています。
▼廃棄物の分類表
廃棄物 | 廃棄物処理法の対象である不要物 | |
産業廃棄物 | 事業活動で発生したもののうち、規定されている20種類 | |
特別管理産業廃棄物 | 産業廃棄物のうち、特に指定された有害なもの | |
一般廃棄物 | 産業廃棄物以外のもの | |
事業系一般廃棄物 | 事業活動で発生した、産業廃棄物以外のもの | |
家庭廃棄物 | 一般家庭の日常生活から発生したもの | |
特別管理一般廃棄物 | 一般廃棄物のうち、特に指定された有害なもの |
これで見ると、産業廃棄物とは、廃棄物の中でも事業活動に伴って生じたもののうち廃棄物処理法で規定されている20種類となります。
つまり、それ以外のものに関しては、たとえ事業活動に伴ったとしても、一般の廃棄物という事になります。
産業廃棄物収集運搬業許可が必要となる種類と具体例
では、今回解説する産廃収集運搬許可に必要な産業廃棄物がどのように規定されているのか、種類と一般的な具体例で確認しましょう。
▼産業廃棄物の種類と具体例
種類 | 具体例 | |
あらゆる事業活動に伴うもの | (1)燃え殻 | 石炭がら、焼却炉の残灰、炉清掃排出物、その他焼却残さ |
(2)汚泥 | 排水処理後および各種製造業生産工程で排出された泥状のもの、活性汚泥法による余剰汚泥、ビルピット汚泥、カーバイトかす、ベントナイト汚泥、洗車場汚泥、建設汚泥等 | |
(3)廃油 | 鉱物性油、動植物性油、潤滑油、絶縁油、洗浄油、切削油、溶剤、タールピッチ等 | |
(4)廃酸 | 写真定着廃液、廃硫酸、廃塩酸、各種の有機廃酸類等すべての酸性廃液 | |
(5)廃アルカリ | 写真現像廃液、廃ソーダ液、金属せっけん廃液等すべてのアルカリ性廃液 | |
(6)廃プラスチック類 | 合成樹脂くず、合成繊維くず、合成ゴムくず(廃タイヤを含む)等固形状・液状のすべての合成高分子系化合物 | |
(7)ゴムくず | 生ゴム、天然ゴムくず | |
(8)金属くず | 鉄鋼または非鉄金属の破片、研磨くず、切削くず等 | |
(9)ガラスくず、コンクリートくずおよび陶磁器くず | ガラス類(板ガラス等)、製品の製造過程等で生ずるコンクリートくず、インターロッキングブロックくず、レンガくず、廃石膏ボード、セメントくず、モルタルくず、スレートくず、陶磁器くず等 | |
(10)鉱さい | 鋳物廃砂、電炉等溶解炉かす、ボタ、不良石炭、粉炭かす等 | |
(11)がれき類 | 工作物の新築、改築または除去により生じたコンクリート破片、アスファルト破片その他これらに類する不要物 | |
(12)ばいじん | 大気汚染防止法に定めるばい煙発生施設、ダイオキシン類対策特別措置法に定める特定施設または産業廃棄物焼却施設において発生するばいじんであって集じん施設によって集められたもの | |
特定の事業活動に伴うもの | (13)紙くず | 建設業に係るもの(工作物の新築、改築または除去により生じたもの)、パルプ製造業、製紙業、紙加工品製造業、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業から生ずる紙くず |
(14)木くず | 建設業に係るもの(範囲は紙くずと同じ)、木材・木製品製造業(家具の製造業を含む)、パルプ製造業、輸入木材の卸売業および物品賃貸業から生ずる木材片、おがくず、バーク類等、貨物の流通のために使用したパレット等 | |
(15)繊維くず | 建設業に係るもの(範囲は紙くずと同じ)、衣服その他繊維製品製造業以外の繊維工業から生ずる木綿くず、羊毛くず等の天然繊維くず | |
(16)動植物性残さ | 食料品、医薬品、香料製造業から生ずるあめかす、のりかす、醸造かす、発酵かす、魚および獣のあら等の固形状の不要物 | |
(17)動物系固形不要物 | と畜場において処分した獣畜、食鳥処理場において処理した食鳥に係る固形状の不要物 | |
(18)動物のふん尿 | 畜産農業から排出される牛、馬、豚、めん羊、にわとり等のふん尿 | |
(19)動物の死体 | 畜産農業から排出される牛、馬、豚、めん羊、にわとり等の死体 | |
(20)以上の産業廃棄物を処分するために処理したもので、上記の産業廃棄物に該当しないもの(例えば、コンクリート固型化物) |
こちらが産業廃棄物ですが、その中でも特に運搬や処理の取扱いに注意しなければならないものが以下の「特別管理産業廃棄物」です。
▼特別管理産業廃棄物の種類と性状および事業例
種類 | 性状および事業例 | |
廃油 | 揮発油類、灯油類、軽油類の燃えやすい廃油《事業例》紡績、新聞、香料製造、医療品製造、石油精製、電気めっき、洗濯、科学技術研究、その他 | |
廃酸 廃アルカリ | pH2.0以下の酸性廃液、pH12.5以上のアルカリ性廃液《事業例》カセイソーダ製造、無機顔料製造、無機・有機化学工業製品製造、アセチレン誘導品製造、医薬・試薬・農薬製造、金属製品製造、石油化学工業製品製造、非鉄金属製造、ガラス・窯業、科学技術研究、その他 | |
感染性産業廃棄物 | 感染性病原体が含まれるか、付着しているか又はそれらのおそれのある産棄廃棄物 (血液の付着した注射針、採血管等)《事業例》病院、診療所、衛生検査所、老人保健施設、その他 | |
特定有害産業廃棄物 | 廃PCB等 | 廃PCBおよびPCBを含む廃油 |
PCB汚染物 | PCBが染み込んだ汚泥、PCBが塗布もしくは染み込んだ紙くず、PCBが染み込んだ木くず、もしくは繊維くず、またはPCBが付着もしくは封入された廃ブラスチック類や金属くず、PCBが付着した陶磁器くずやがれき類 | |
PCB処理物 | 廃PCB等またはPCB汚染物を処分するために処理したもの(環境省令で定める基準に適合しないものに限る) | |
廃水銀等 及びその処理物 | ・廃水銀等(廃水銀及び廃水銀化合物) ・廃水銀等を処分するために処理したもの(環境省令で定める基準に適合しないものに限る)《事業例》水銀回収施設、水銀使用製品製造施設、水銀を媒体とする測定機器を有する施設、大学及びその附属試験研究機関、その他 | |
廃石綿等 | 建築物その他の工作物から除去した飛散性の吹付け石綿、石綿含有保温材、断熱材、耐火被覆材およびその除去工事から排出されるプラスチックシート等で、石綿が付着しているおそれのあるもの、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設で生じた石綿で集じん施設で集められたもの等《事業例》石綿建材除去事業等 | |
有害産業廃棄物 | 水銀、カドミウム、鉛、有機燐化合物、六価クロム、砒素、シアン、PCB、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,3-ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン、1,4-ジオキサン又はその化合物、ダイオキシン類が基準値を超えて含まれる汚泥、鉱さい、廃油、廃酸、廃アルカリ、燃え殻、ばいじん等《事業例》大気汚染防止法(ばい煙発生施設)、水質汚濁防止法(特定事業場)等に規定する施設・事業場 |
産業廃棄物も特別管理産業廃棄物もかなり細かく分類されています。
なお、産業廃棄物収集運搬業の許可では、産業廃棄物しか収集運搬はできませんし、特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可では、特別管理産業廃棄物しか収運運搬はできないため注意してください。
そして、これらの種類の産業廃棄物で、他人の産業廃棄物を収集・運搬する場合には、産業廃棄物収集運搬業の許可が必要となるわけです。
産業廃棄物収集運搬業許可の要件について
産業廃棄物収集運搬業許可とは、「産業廃棄物の収集・運搬を委託され事業として行う場合」に必要となる許可のことです。この許可は、収集・運搬を行う各都道府県ごとによって出されるものであり、許可を受けるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターの講習会を修了している
- 事業を継続して行えるだけの経理的基礎を持っていること
- 暴力団員や破産者で復権を得ない者など、欠格条項に該当しないこと
- 廃棄物が飛散するおそれがない等の適切な運搬車や、運搬容器その他の運搬施設を有していること
これらの条件を満たした上で、都道府県知事に対して許可申請を行うことで、はじめて産業廃棄物収集運搬業許可を受けることができるのです。
ちなみに、東京都で積み込んだ産業廃棄物を神奈川県に持って行くなど、収集運搬に際して都道府県をまたぐ場合、それぞれの都道府県知事から許可を得る必要があるため注意しましょう。
要件①:講習会の受講
申請に際しては、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(JWセンター)が実施する「産業廃棄物又は特別産業廃棄物処理業の許可申請に関する講習会」を修了している必要があります。 講習会は、申請者が個人の場合は申請者本人、法人の場合は代表者、役員などが受講して、修了しておく必要があります。
要件②経理的基礎について
経理的基礎については、「事業において利益が計上されず、かつ、債務超過の状態(赤字等)にある場合」などは、継続的な営業ができない恐れがあると捉えられるかもしれません。
申請する都道府県によっては、産業廃棄物収集運搬業として継続した営業が可能であることを、事業計画等作成することによって解消できる場合もありますので、事前に行政書士等の専門家に相談されることをオススメします。
要件③欠格条項について
法第14条第5項第2号(産業廃棄物)又は第14条の4第10項第2号(特別管理産業廃棄物)で、適正な業を遂行することが期待できない者として「破産者、暴力団員、その他」を規定しています。申請者やその法人の役員、株主、出資者、法定代理人、政令使用人が当該条項に該当しないことが必要です。
なお、産業廃棄物収集運搬業の許可後に該当することとなった場合は、当該許可は取り消されますので、許可を取った後にも欠格条項に該当しないよう考えておく必要があります。
要件④:事業の用に供する施設に係る基準について
「事業の用に供する施設」とは、運搬に使う車両、船舶、容器とその駐車施設、洗車施設などが該当します。
また、施設に係る基準としては、「産業廃棄物の種類に応じ、その収集又は運搬に適するもので、飛散し、流出し、悪臭が漏れるおそれのない施設(車両や容器)を有すること」とされ、特別管理産業廃棄物では「より厳重」に基準が定められています。
したがって、収集・運搬を行う予定の産業廃棄物の性状、形状、取扱量などに応じた車両、容器などを用意しておく必要があります。
例えば、パッカー車ではがれき類等は運べませんし、液状の汚泥などを運ぶ場合でしたら、こぼれない容器が必要になったりします。
申請時に、車両や容器等の写真も必要になりますので、産業廃棄物収集運搬業の申請前には用意しておかなければなりません。
駐車場に関しても、運搬に必要な車両等をおいておく、使用権限や車両等に見合ったスペースがなければいけません。
許可申請の流れ
ここで、産業廃棄物収集運搬業許可申請の流れについてまとめておきましょう。
申請書類の作成、添付書類の準備
各都道府県庁の窓口やホームページから入手した以下の申請書類様式に必要事項を記載し、申請書類を作成します。
- 産業廃棄物収集運搬業許可申請書
- 事業計画の概要
- 運搬車両の写真
- 運搬容器等の写真
- 事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方法
- 資産に関する調書(個人用)
- 誓約書
申請にあたっては、申請書類のほかに、以下のような確認書類も必要になります。申請書類と合わせて準備しておきましょう。
▼申請者が法人の場合
- 定款の写し
- 履歴事項全部証明書
- 役員全員及び5%以上出資している株主の住民票
- 事務所の案内図
- 登記事項証明書
- 講習会修了証
- 自動車検査証の写し
- 直近3年間の貸借対照表、損益計算書
- 直近3年間の法人税の納税証明書 (その1)
▼申請者が個人の場合
- 事業主の住民票
- 事務所の案内図
- 事業主の登記事項証明書
- 講習会修了証
- 自動車検査証の写し
- 直近3年間の所得税の確定申告書の写し(青色申告・白色申告共通)
- 直近3年間の貸借対照表・損益計算書(青色申告の場合)
- 直近3年間の収支内訳書(白色申告の場合)
- 金融機関発行の残高証明書(原本)(白色申告の場合)
- 市町村発行の固定資産税評価額等証明書(原本)(白色申告の場合)
- 直近3年間の所得税の納税証明書(その1)(その1の税額証明)
申請
申請先は、申請者が個人か法人かにかかわらず、都道府県知事です。申請は通常窓口受付ですが、郵送でも受付をおこなっています。なお、窓口受付、郵送受付とも申請日時の予約が必要です。申請日が1~2ヶ月先になることもあるので、余裕をもって予約するといいでしょう。
申請の際に、申請手数料を納付します。新規に産業廃棄物収集運搬業許可を申請する際にかかる手数料は、申請場所にかかわらず全国一律81,000円です。産業廃棄物を収集する都道府県と運搬先の都道府県が異なる場合は、それぞれの都道府県に申請をおこない、それぞれの都道府県ごとに81,000円の手数料を納付する必要があります。
申請内容も複雑ですし、申請先が収集元と運搬先の各都道府県になってくるため管理・事務も大変な許認可といえます。
審査
申請を行うと審査が行われますが、審査に3ヶ月程度かかります。申請をして即日許可が下りるというわけではないので注意が必要です。
また許可の有効期限は5年間となっており、その後も事業を続けて行きたい場合は更新許可申請をする必要があります。
行政書士に依頼するメリット
産業廃棄物収集運搬業において、登録申請書の作成や添付書類の収集などはとても手間と時間がかかるものです。特に添付書類は法務局から取得しなくてはならなかったり、税務署から取得する必要があったりなど、慣れていないと時間と労力を要します。また、申請書類に不備があると、審査がストップしてしまいます。
今まで一度も申請をしたことがないと登録をするために、どれだけの時間と労力がかかるかも未知数だと思います。そのため、行政書士に依頼することで、スムーズに申請することができ、結果的にご自身で行うより早く事業をスタートすることができます。
産業廃棄物収集運搬業のまとめ
産業廃棄物の収集運搬を行うために必要となる許可について紹介しました。
建設業者がこの許可があれば、工事の材料を現場に運んできたトラックを活用して建設廃棄物を運搬することが可能です。
元請業者としても、下請業者が建設廃棄物を収集・運搬することができれば別の業者に依頼する手間が省けるので効率的です。
もし、効率よく許可を取って産業廃棄物の運搬ビジネスをスタートさせたいのであれば、行政書士など専門家への相談をおすすめします。適切なサポートを受けられ、よりスムーズに手続きを進められるでしょう。