建設業許可を取って500万円以上に大きな工事を請け負って頑張りたいのに、許可を取得するための要件を満たしていない、もしくは、要件を満たしているのに過去の書類が残っていなく困っている建設業者さんはかなりいます。
どうしようもできずに「裏ワザ」はないのか?という質問をよくされます。なんと、建設業許可には「裏ワザ」があります!
しかし、「裏ワザ」といっても、要件を満たしていないのに満たしているかのように書類を作成して申請するわけでは無いです。「裏ワザ」とは、行政のHPで掲載されている「建設業許可申請についての手引き」には載っていない、数多くの許可申請をした中でたどり着いた経験に基づく対処方法のことです。
このページでは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で建設業許可申請をする場合の①経営業務の管理責任者、②専任技術者、③500万円の財産要件についての裏ワザを紹介します。
要件①経営業務の管理責任者がいること
経営業務の管理責任者の要件は常勤している取締役のうち、つぎのいづれかの要件を満たす必要があります。
- 建設業に関して5年以上取締役として経験のある者
- 建設業に関して5年以上取締役に準ずる地位(建設部長等)にあり、経営業務のある者
- 建設業に関して、6年以上取締役に準ずる地位があるものとして、経営業務を補佐する業務に従事した経験がある者
- 建設業に関して2年以上役員等として経験を有し、かつ5年以上役員又は役員に次ぐ職制上の地位にあるもの。さらに5年以上財務管理、労務管理、業務運営管理の従事した者を補佐としておくこと。
- 5年以上役員としての経験を有し、かつ建設業に関して2年以上の経験があるもので更に、5年以上の財務管理、労務管理、業務運営管理に従事した補佐役をおくこと。
メインで利用する経験は1.の「建設業に関し5年以上取締役としての経験を有する者」での経験です。
令和2年10月に1.以外の経験も認めれたのですが、主に2年ごとに役員が変わるような大企業向けの改正で、そのような会社は2年ごとに役員が変わることが多く、経営業務の管理責任者の要件を満たした者を役員にし続けることが難しく、結果的に建設業許可を維持することもできないという問題点があったためです。
そのため、本ページでは、1.の経験を使用した場合の証明方法をご説明いたします。
経営業務の管理責任者の要件をクリアする裏ワザ
建設業許可において経営業務の管理責任者でつまずくケースが一番多いです。5年以上の経営経験(役員経験)というのは、かなり高いハードルだからです。
よく相談をうけるのはこの3つのパターンに分かれます。
- 許可のない業者で5年以上経営経験(役員経験)があるけど、証明書類がない時
- 許可のある業者で5年以上経営経験(役員経験)があるけど、証明書類がない時
- そもそも5年以上の経営経験(役員経験)がない時
それぞれ対処方法を解説します。
①許可のない業者で5年以上経営経験(役員経験)があるけど、証明書類がない時
許可がない法人の代表または個人事業主(一人親方)として建設業を5年以上営んできたものの、請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録といった証明書類が残っていないということはよくあります。
1.請負契約書、注文書+請書については、工事実績が確実にあるのであれば、当時の取引先にコピーをお願いするのも1つの方法です。
2.請求書+入金記録について、通帳が残っていない場合でも「入金記録」は前10年間であれば銀行に問い合わせることで取引明細を発行してもらえることは多いのでそれでクリアできます。請求書については、確定申告時に税理士にコピーを渡しているケースは多いと思うので、税理士に確認するのもいいでしょう。
入金記録さえ入手することができ、かつ、工事実績が確実にあるのであれば、証明する方法はいくつもあります。
なお、申請する都道府県によっては、請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録がいらないケースもあります。東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県を1都3県ごとにまとめましたので、ご確認ください。
東京都 | 証明書類 |
法人役員の経験 | ①登記事項証明書 + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:3か月ごとに1件) |
個人事業主の経験 | ①確定申告書(受付印のあるもの) + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:3か月ごとに1件) |
神奈川県 | 証明書類 |
法人役員の経験 | ①登記事項証明書 + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:1年ごとに1件) or 確定申告書(業種欄に建設業とわかるものに限る) (必要年数分) |
個人事業主の経験 | ①確定申告書(受付印のあるもの) + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:1年ごとに1件) or 確定申告書(業種欄に建設業とわかるものに限る) (必要年数分) |
埼玉県 | 証明書類 |
法人役員の経験 | ①登記事項証明書 + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:3か月ごとに1件) |
個人事業主の経験 | ①確定申告書(受付印のあるもの) + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:3か月ごとに1件) |
千葉県 | 証明書類 |
法人役員の経験 | ①登記事項証明書 + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:1年ごとに1件) |
個人事業主の経験 | ①確定申告書(受付印のあるもの) or 市町村発行の課税証明書 ※いずれも確定申告書が紛失かつ課税証明書が発行期間を過過ぎてしまった場合、②を1年ごとに2件 + ②工事請負契約書、注文書+請書、請求書+入金記録 (証明期間分:1年ごとに1件) |
個人事業主の確定申告書について、原則紛失してしまった場合は事業主としての経験を証明できない場合が多いですが、千葉県のみ課税証明書でもOKとされています。
また、建設業を営んでいた証明について、東京都・埼玉県は3か月ごとに1件の実績確認書類が必要なため、5年間分証明する場合は計20件以上の契約書が必要になりますが、千葉県・神奈川県は1年ごとに1件で大丈夫なため、5年間証明する場合はわずか5件~6件程度の実績確認書類を提出できれば経営業務の管理責任者の要件を満たせるということになります。
そのため、一人親方で独立したばかりの時は3か月ごとに1件も実績確認書類が用意できない場合でも、神奈川県・千葉県であればクリアできる可能性が高くなります。
しかも、神奈川県は確定申告書に業種・職種欄に建設業と記載があれば、工事請負契約書や請求書などは一切不要になるケースもあり、かなりスムーズに許可が取得できるでしょう。
他社での役員経験で、協力を得ることができないケースは相当ハードルが高くなりますが、当時の取引先と関係性が続いているのであれば、そこからクリアの糸口を見つけていくことも方法です。
諦めずにまずは行政書士等の専門家に相談をしながら進めていくべきでしょう。
②許可のある業者で5年以上経営経験(役員経験)があるけど、証明書類がない時
許可がある業者での経験の場合は、基本的には、許可通知書を用意するだけで証明できます。
しかし、許可がある他社での役員として5年以上の経営経験があるものの、協力を得ることができないということはよくあります。その場合は、まずはその会社がどこの都道府県で許可を取得していたかを確認しましょう。
東京都や神奈川県の場合は、行政に「会社名」「営業所の住所」「当時の代表取締役」を伝えるだけで、いつからいつまで許可を取得していたか教えてくれる場合があります。また大阪の場合は行政文書の開示請求をすることで許可状況が記載された文書(黒台帳と呼ばれています)を手に入れることができます。
これらの情報から証明することができるので、諦めずにまずは行政書士等の専門家に相談をしながら進めていくべきでしょう。
③そもそも5年以上の経営経験がない時
そもそも経営経験がない場合は、要件を満たすことは極めて難しいと言えます。5年間は通算でも認められますので、過去、少しでも法人の代表や個人事業主をやっていたのであれば、現在+過去の合わせ技で証明しましょう。
そうでない場合は、経験年数が到達するのを待つか、経験がある人を迎え入れるしかありません。
それ以外では「取締役や個人事業主の直下で経営を補佐した経験者」に該当するかの可能性を探っていくことぐらいでしょう。。
要件②専任技術者が営業所ごとにいること
2つ目の要件は、営業所(本店等)に常勤する専任技術者がいることです。専任技術者の要件は一般建設業許可と特定建設業許可で異なります。
<一般建設業許可の専任技術者の要件>
以下のいずれかの要件を満たす者が専任技術者になることができます。
- 定められた国家資格を持っている
- 定められた国家資格+資格取得後一定の実務経験がある
- 指定学科を卒業し、学歴に応じた実務経験がある
- 10年以上の実務経験がある
<特定建設業許可の専任技術者の要件>
以下のいずれかの要件を満たす者が専任技術者になることができます。
- 定められた国家資格を持っている
- 一般建設業許可の専任技術者の要件に該当し、2年以上指導監督的な実務経験を有する者
専任技術者の要件をクリアする裏ワザ
経営業務の管理責任者に次いでハードルが高いのが専任技術者です。専任技術者の要件は業種に応じた10年以上の実務経験か国家資格等を有していることです。
実務経験の証明書類を揃えることができない場合の対処方法を解説します。
①10年以上の実務経験はあるけど、証明書類がない時
以前勤めていた会社で10年以上の実務経験があるものの、請負契約書、注文書・請書、請求書+入金記録といった証明書類のコピーを用意してもらうのは難しいかもしれません。
以前勤めていた会社が許可業者であれば、許可通知書で証明することができます。関係性によっては許可通知書のコピーをもらうことは難しいかもしれませんが、先ほどと同じように東京都や神奈川県の場合は、主たる営業所の住所・代表取締役を伝えるだけで、いつからいつまで許可を取得していたか教えてくれる場合があります。また大阪の場合は行政文書の開示請求をすることで同様に許可状況が記載された文書(黒台帳と呼ばれています)を手に入れることができます。
これらの情報から証明することができるので、諦めずにまずは行政書士等の専門家に相談をしながら進めていくべきでしょう。
②施工管理技士補の活用
10年間以上の実務経験を積むのもそれを証明するのもかなり大変です。そのため、施工管理技士補を取得することにより、実務経験を5年もしくは3年に短縮できる制度を利用することも1つの方法です。
令和3年度より、施工管理技士補の制度が創設されました。それにより、施工管理技士試験の名称が変更になり、今までの学科試験が第1次検定・実地試験が第2次検定となり、第1次検定合格後に「施工管理技士補」の称号を取得可能となります。今までは第1検定(旧:学科試験)合格後、第2次検定までの有効期限があったのですが、第1次検定合格の期限が無期限となりました。
また、令和6年度より第1次検定受検における学歴や実務経験の制限がなくなり、令和6年度末(2025年3月31日)の時点で1級は19歳以上、2級は17歳以上であれば誰でも受検することができるようになりました。したがって、受検資格の無かった学生の方や建設業の実務経験が全くない方でも、第1次検定を受験することができ、合格した場合は専任の技術者になるための要件である実務経験が5年又は3年に短縮することができるのです。
③とび・土工工事業であれば講習受講を狙う!
実務経験を証明できないとなると資格を取るしかないわけですが、施工管理技士の試験や技能検定試験はハードルが高く感じるかもしれません。
実はとび・土工工事業であれば、講習を受講することで専任技術者になる方法があります。
「登録土工基幹技能者講習」という技能講習を受ける(修了テストはあります)ことで専任技術者の資格を得ることができます。
この技能講習の受講資格は10年以上の実務経験と3年以上の職長経験(契約書、注文書等の証明書類は不要)と以下の1~13のうち2つ以上を修了しているか、14を修了しているかで足ります。
⑨~⑬あたりはすでに修了している方も多いのではないでしょうか。
<2つ以上を修了していることが条件>
- 地山の掘削作業主任者技能講習
- 土止め支保工作業主任者技能講習
- 型枠支保工の組立て等作業主任者技能講習
- 足場の組立て等作業主任者技能講習
- コンクリート破砕器作業主任者技能講習
- はい作業主任者技能講習
- 車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習
- 不整地運搬車運転技能講習
- 高所作業者運転技能講習
- フォークリフト運転技能講習
- 小型移動式クレーン運転技能講習
- 玉掛け技能講習
- ガス溶接技能講習
<1つの修了で大丈夫>
14.地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講
講習は2日間で計600分、修了テストは60分、年に2回開催されています。
要件③500万円の財産要件
建設業許可を取る上であと1つ、申請者からの相談が多いのが財産要件です。
500万円の財産要件を証明する方法は次の2つの基準です。
- 自己資本が500万円以上あること
- 500万円以上の資金調達が可能であること
資本金を500万円以上しなければ財産要件を満たすことができないと思われている方が多いですが、資本金500万円=財産要件クリアではありません。
また、資本金を500万円以上にしても、財産要件を必ずしもクリアできるというわけではありません。
①自己資本が500万円以上あること
自己資本とは、簡単にいうと財産から借金を差し引きした金額(返済義務のない資金)のことです。
具体的には、法人であれば、直前期の決算報告書内の貸借対照表のうち、「純資産の部」の金額をいいます。資本金や資本剰余金、利益剰余金や繰越利益剰余金といった項目が並んでいると思いますが、これらの合計額が自己資本ということになります。
この純資産の部の金額は、「資産」の全項目から「負債」全項目を差し引きした金額とイコールになります。
なお、建設業許可を受けるための財産要件は、許可申請を行う直前期の決算報告書で判断されます。そのため、仮に資本金を増資して自己資本を500万円以上にしようと思った場合でも、その増資が反映された決算報告書ができるまで建設業許可申請においては自己資本500万円以上の証明はできませんので、注意が必要です。
②500万円以上の資金調達が可能であること
自己資本が500万円以上ある場合(上の①の条件をクリアできるとき)には、次の②は検討する必要はありません。
しかし、もし500万円に満たない場合には、②500万円以上の資金調達が可能であることの要件をクリアできないか検討することになります。
「資金調達が可能である」というのは、ごく簡単にいえば銀行に500万円以上のお金があることを証明できるということです。
この要件は申請先によって証明方法が変わりますが、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県においては、金融機関で500万円以上の金額の記載がある「預金残高証明書」を取得することができれば問題ありません。
預金残高証明書は指定日にいくら預金があるかを証明する書類ですので、資金が500万円以上預けられていればスムーズに発行されます。また、常に500万円以上なければいけないと思っている方もいますが、取引先からの入金があったタイミングで預金残高証明書を取得しても大丈夫です。
前後の取引明細は記載されませんので、一時的に役員からの借入を行い金融機関に500万円以上になるよう調整してから、「預金残高証明書」を取得しても財産要件を満たすことができます。
しかし、証明日から1か月以上経過している預金残高証明書を使用することはできませんので、入金があるタイミングから逆算して準備しておくことが重要です。
裏ワザ:手引きにないテクニックまとめ
建設業許可の要件をクリアするための裏ワザ的対処方法をいくつかご紹介しましたが、過去・現在の状況によって他にも様々な方法が考えられます。
裏ワザと言うと、過去の経験をでっちあげるような勘違いをされそうですが、実際は手引き記載されていないだけで、経験があればいくつも対処方法があるうちの1つのことなのです。
手続きに不安があり代行してほしい方は、行政書士など専門家への相談をおすすめします。適切なサポートを受けられ、よりスムーズに手続きを進められるでしょう。