「建築に関する業務を始めるには、建設業許可と建築士事務所登録、両方が必要なんですか?」
「設計だけやるつもりですが、どちらの許可を取ればいいんでしょうか?」
こうしたご質問は、これから建築関連の事業を立ち上げる方から非常によくいただきます。
名前が似ていて、どちらも「建築」に関係しているため、制度の目的や対象業務の違いが曖昧なままになっているケースも少なくありません。
実は、「建築士事務所登録」と「建設業許可」は、それぞれ根拠法令も目的も、求められる要件もまったく異なる制度です。混同したまま準備を進めてしまうと、手続きの順番を間違えたり、必要な登録を見落としたりしてしまう恐れも。
このページでは、建築士事務所登録と建設業許可の違いや取得要件について、わかりやすくご紹介します。
建築士事務所登録と建設業許可:業務の違い

建築関連の業務を始める際、「建設業許可を取れば設計もできるのでは?」というご相談をよくいただきますが、これは大きな誤解です。
建築士事務所登録と建設業許可は、それぞれ根拠法令も、目的も、対応する業務内容も異なる制度です。
業務内容 | 登録・許可名 | 主にできること |
---|---|---|
設計・監理系 | 建築士事務所登録 | 建築物の設計、工事監理、建築工事の指導監督など |
工事請負系 | 建設業許可 | 建築工事の施工・請負 |
建築士事務所登録
建築士又はこれらの者を使用する者は、他人の求め応じ報酬を得て、建築物の設計、建築物の工事監理、建築工事に関する事務、建築工事の指導監督、建築物に関する調査または官邸、建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理を行う場合は、一級建築士、二級建築士事務所、土造建築士事務所を定めて、登録を受けなければなりません。
建築業許可
建設業法に基づき一件の請負代金が500万円以上の建設工事を施工する際に必要となる許可です。
建築士事務所登録と、建設業許可はそれぞれできることが違う為、建設業許可があるから建築物の設計ができるということにはなりません。
建築物の設計の仕事をするには、建築士事務所登録が必須となります。それが建築工事の一環としての設計であったとしても、建築士事務所登録が必要となるのでご注意ください。
それでは次に、それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
建築士事務所登録と建設業許可:要件の違い
建築に関する業務を行うには、「建築士事務所登録」または「建設業許可」が必要になりますが、建築士事務所登録・建設業許可を受けるための要件も大きく異なります。以下では、それぞれの制度が求める主な要件を比較しながら整理してみましょう。
建築士事務所登録の要件
建築士事務所として登録を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 管理建築士の配置
- 事務所には必ず常勤の管理建築士を配置しなければなりません。
管理建築士とは、その事務所の設計・工事監理業務の統括責任者であり、管理建築士講習の修了が必要です。
- 事務所には必ず常勤の管理建築士を配置しなければなりません。
- 営業所の確保
- 事務所として使用するための営業所を実際に確保していることが必要です。
- 賃貸借契約書など、使用権限を証明できる書類の提出が求められることもあります。
- 一定の欠格要件に該当していないこと
- 法人の場合は事業目的の明記
- 法人が登録を行う場合は、定款・謄本などに「建築物の設計」や「工事監理」などの事業目的が明記されていることが必要です。
建設業許可の要件
- 経営業務に関わる方の中に、経営業務管理責任者を置く必要がある
- 工事に関わる契約を結び、見積もりを行う営業所を設置する
- 許可を受けたい業種の専任技術者を持った方がいる
- 財産的信用の基準を満たしている
- 欠格事由に該当していないこと
上記をご覧いただくと、建築士事務所登録と建設業許可の要件が違っていることが分かります。その中でもそれぞれ1.の要件についてもう少し分かりやすく解説していきます。
建築士事務所登録:管理建築士とは
管理建築士となるためには、一級建築士・二級建築士・木造建築士が管理建築士講習を受講し修了する必要があります。管理建築士講習修了証は、「管理建築士」としての講習を修了していることを求められるため、定期講習修了証では代用できませんのでご注意ください
また、管理建築士とは、その名前のとおり建築士事務所を管理する建築士のことで、 建築士事務所の登録は管理する建築士によって「一級建築士事務所」「二級建築士事務所」「木造建築士事務所」に分かれます。
管理建築士は専任性・常勤性が求められるため、その事務所に常勤し、専ら管理建築士の職務を行わなければなりません。休日以外の営業日は、勤務時間中その事務所への勤務が求められます。
お困りの際はご相談ください
管理建築士についてどうやったらなれるのか判断が難しいこともあります。
「自分が要件を満たしているかわからない」「証明書類が揃えられるか不安」など、お困りの方はお気軽に無料相談をご活用ください。

建設業許可:経営業務管理責任者とは
建設業許可を取得する際に最もつまずきやすいのが、「経営業務の管理責任者(経管)」の要件です。
この要件は、常勤している取締役のうち、以下のいずれかを満たす必要があります。
▼経営業務の管理責任者として認められるパターン
- 建設業に関して5年以上取締役として経験のある者(←メインで使うのはこれです)
- 建設業に関して5年以上取締役に準ずる地位(例:建設部長)にあり、経営業務のある者
- 建設業に関して、6年以上取締役に準ずる地位があるものとして、経営業務を補佐する業務に従事した経験がある者
- 建設業に関して2年以上役員等として経験を有し、かつ5年以上役員又は役員に次ぐ職制上の地位にあるもの。さらに5年以上財務管理、労務管理、業務運営管理の従事した者を補佐としておくこと。
- 5年以上役員としての経験を有し、かつ建設業に関して2年以上の経験があるもので更に、5年以上の財務管理、労務管理、業務運営管理に従事した補佐役をおくこと。
中小企業や個人経営に近い会社の場合は、「5年以上取締役としての経験(パターン1)」での証明が現実的です。
(例)
・建設会社の取締役として5年以上の経験がある。
・個人事業主として5年以上の経験がある。
・建設業許可を取得している建設業者の令3条の使用人(支店長)として5年以上の経験がある。
お困りの際はご相談ください
経営業務の管理責任者の要件証明に関しては判断が難しいこともあります。
「自分が要件を満たしているかわからない」「証明書類が揃えられるか不安」など、お困りの方はお気軽に無料相談をご活用ください。
まとめ
建設業許可と建築士事務所登録の違いについてご説明しましたが、ここで一番気をつけてほしいのは、「建設業許可があるから設計もできる」と誤解しているケースが非常に多いことです。
実は、設計業務を請け負う場合、建設業許可だけでは法律違反となり、最悪の場合は罰則や営業停止などの厳しい処分を受けるリスクがあります。
知らずにそのまま業務を始めてしまうと、あとから大きなトラブルに発展しかねません。
だからこそ、早急に建築士事務所登録が必要かどうかの確認を行い、未登録なら速やかに手続きを始めることが重要です。
手続きは複雑で煩雑なため、行政書士などの専門家にすぐ相談し、確実に対応しておくことを強くおすすめします。
一日でも遅れるとリスクが膨らむため、「まだ大丈夫」と放置せず、すぐに動き出しましょう。