建設業の派遣はNG?派遣と請負の違いをまるっと解説

工事の現場で人手が足りないとならないように、複数の建設業者で協力して、従業員を現場に送り込むということが日常的に行われている場合があります。

しかし、このことが違法な派遣行為とみなされる危険性があるのです。

このページでは派遣が禁止される理由と具体的な派遣禁止業務、そして派遣の活用が認められる業務について解説します。

違法な状態が問題となるケース

自社の従業員を、ほかの建設業者が請け負っている建設現場に他者の要請によって働かせる状態は、法的にはどのような取り扱いを受けるのでしょうか。

実際には、このような状態にある場合、3つのパターンのいずれかに該当すると考えられます。

ケース①:労働者供給

労働者供給とは、供給契約にもとづいて労働者を他人の指揮命令を受ける状態におき、労働に従事させることのうち、労働者派遣に該当しないものをいいます。

ケース②:労働者派遣

労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、その雇用関係のもと他人の指揮命令を受けて、その他人のために労働に従事させることです。

労働者派遣の場合、その労働者を派遣先に雇用させる約束をしていないものに限られます。

ケース③:請負

請負とは、当事者の一方が仕事を完成させることを約束し、相手方がその他仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することです。この中で、建設業者が他者の行っている建設現場に労働者を送り込む際に法的な問題がないのは③の請負だけです。

労働者派遣に関する規定を設けている労働者派遣法では、建設業務について労働者派遣事業を行ってはならないとしています。そして、この場合の建設業務には、土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破棄もしくは解体の作業と含むものとされます。

このような業務を①の労働者供給や②の労働者派遣により行うことは、労働者派遣法に違反することとなるため、違法となるのです。

また、③の請負に該当するように契約を締結していたとしても、その実質が労働者派遣であるとみなされる場合には、偽装請負にあたるとされ、やはり違法行為とされます。

請負契約は、工事が完成したら報酬を支払うものでなければなりません。

契約の内容が単なる労働力の提供となっている場合、例えば契約書の表題が請負契約となっていても認められません。

その業務の内容やあり方については、慎重に判断する必要があります。

違法性の判断ポイントは誰が指揮命令しているか

請負となるのか労働供給(労働者派遣や労働者供給の総称)となるのかの違いによって、適法となるか違法となるかの結論が変わることとなります。違法なことをしているつもりはなくても違法とされる可能性があるため、違法行為として摘発されることのないように気をつけなければなりません。

しかし請負も労働供給も、自分が雇用している従業員をほかの事業者のもとで労働させているため、違いが分かりにくいという問題があります。

それは、労働の指揮命令を行っている人が誰であり、働いている人が誰の指揮・監理のもとにあるかということです。

建設現場で、自らの責任において、従業員に対して業務上の指示を行ったり従業員の労働を管理したりしている場合には、請負に該当します。

一方、建設現場でほかの業者の指揮命令のもとにある場合は、労働供給に該当します。

指揮命令の内容には、以下のようなものがあります。

  1. 労働者の職務の遂行方法に関する指示・管理
  2. 労働者の職務遂行の評価に関する指示・管理
  3. 始業・終業時間、休憩、休日、休暇などの指示・管理
  4. 服務規定や労働者の配置に関する決定・変更
  5. 業務処理に関する資金の調達・支払いや、法律上の責任を事業主として負うこと
  6. 機械設備や材料を自分で準備するか、専門的な知識・経験にもとづいて業務を処理しており、単に労働力を提供するものでないこと

これらの要件をすべて満たすものが請負であるとされ、適法となります。逆に1つでも要件を満たさない場合には雇用や労働供給とされ、違法となる可能性が高いです。

ただ、形式的に判断するだけでなく、契約条件や専属度、収入などを含めて総合的に判断されるため、形式的には適法であると考えられても、その実態からみて労働供給に該当し違法と判断されるケースも考えられます。

請負とは認められないケースとは

以下のようなケースは、請負ではなく労働供給とみなされ、違法とされる可能性が高いものです。

  1. 新人だけを建設現場に行かせて発注者(元請)の指示で仕事をさせる場合
  2. 発注者がほかの事業者から送り込まれてきた従業員に対して事細かな指示をして作業を進める場合
  3. 発注者の側から、現場で働く従業員の履歴書を求め、あるいは事前に面談する場合
  4. 業務に直接必要な機械や機材を発注者が準備して、従業員の側がそれを借りて使うだけの場合
  5. 車を使って建設現場で使う機材や資材を運搬するだけの場合

ただし、⑤のケースに該当するように見えても、運搬するものが産業廃棄物であるなど特別な理由がある場合には、単なる労働供給ではないと判断されます。

個別の事情も勘案して判断されるため、すべて一律に考える必要はありません。

違法な労働供給をしないための対策

最終的には個別に判断されるということは、請負として契約をしていても、その実態から労働供給と判断される場合もあることを意味します。そのような違法行為をしないためにどのような対策をしておくべきなのでしょうか。

大切なのは、自社の従業員は自社の指揮監督下に置くことです。

この原則にしたがってあらゆる行為を行っていかなければなりません。

  • 現場に行かせる従業員の選定を発注者・元請の事業者に行わせると、発注者が従業員の選定に関わっていることとなってしまい、労働供給とみなされます。
    発注者の要請があっても、最終的には自社で従業員に対し現場へ行くように指示をする必要があります。
  • 建設現場に行かせる従業員の中に、技術面や労務管理の精通者を1人以上含めることとし、その者が自社の従業員の管理者となってほかの従業員に対して指示を行うようにします。
    発注者から自社の従業員に対して直接指示をさせることは認められません。
  • 業務に必要な機材や資材は、発注者・元請任せにせず、自社で調達します。
    どうしても発注者から借りたり購入したりする必要がある場合には、発注者との間で別途契約を締結します。

なお、作業のために更衣室を利用したり合間に休憩室を使わせてもらったりすること、作業に向かう従業員が車を停める際に駐車場を利用することなどは、業務に付随して発生するものであり、個別に契約を締結することまでする必要はありません。

請負契約の中にそのような内容を含むことを明記しておき、その分の代金も含まれていることとすれば問題にはなりません。

判断に迷うケース①建設業ではない業務を行う場合

ここまで労働供給は違法であること、そして違法にならないよう気を付けるべきことを解説してきました。しかし実際には、建設現場で発注者から指示を受けて作業をすることがあります。

その指示の内容や指示を受ける際の状況によっては、発注者や元請から指示を受けることが認められるケースも多く、発注者から指示を受けることがすべて違法となるわけではありません。

どのような場合には違法にならないのか、いくつかの具体例をあげて説明します。

まずは、建設業ではない業務を行う場合です。

労働者派遣法で禁止されている建設業とは、建設工事の作業やその準備に関係する業務をいうものとされています。そのため、建設業以外の業務を行う場合は違法行為には該当しないため、仮に発注者が自社以外の従業員に直接指示を行っても問題はないのです。

実際に建設業に関する業務に該当しないものとしては、現場事務所での事務処理、CADオペレーター、スケジュール・施工の順番・施工の手段などを管理する工程管理、建設している建物や構造物の強度・材料などが設計図のとおりに作成されているかの品質管理、従業員の災害防止や公害防止などの安全管理に関する業務などがあります。

これらの業務を行うために自社の従業員を建設現場に送り込むことは、労働者派遣法に規定されている禁止事項には該当しません。

ただし、労働者の派遣については労働者派遣法において許可を得なければなりません。

したがって、先にあげた業務に関する労働者を派遣することは、建設業に関する労働供給に該当して違法になるわけではありませんが、事前に許可を得て派遣を行う必要があります。

判断に迷うのが、「現場監督の派遣」です。

工程管理や品質管理だけを行うのであれば、現場監督の派遣も認められます。しかし、実際に建設に関する作業を行うのであれば建設業に該当するため違法となってしまいます。

実際の業務の内容を踏まえて判断する必要があるため、間違えないようにしなければなりません。

また、建設業許可を受けた建設業者が工事現場に配置しなければならないと定められている専任の主任技術者(監理技術者)については、建設業法において適切な資格や技術力を保持する者を配置することとされています。

そして、直接的・恒常的な雇用関係にあることが求められており、ほかの事業者から派遣された人を配置することは認められません。

必ず、建設業者が直接雇用した人が監理技術者に就任しなければならないこととされているため、管理業務だからといって派遣されてきた従業員を配置することのないようにしましょう。

判断に迷うケース②技術指導が必要な場合

下請業者が元請業者の保有する機械を借りて建設作業を行う場合に、下請業者の従業員が初めてその機械を使用するために、作業に手間取ることや安全性が確保できないことがあります。

この場合、元請業者が直接下請業者の従業員に指示を行うことができないとすれば、かえってその従業員にとって不都合となってしまいます。

このような場合には、その機械を安全に使用するため不可欠な技術指導であることから、元請業者が直接、その操作方法や作業手順の指示を行っても問題ないとされます。

判断に迷うケース③労働条件が同じ場合

1つの建設現場に複数の事業者から労働者が集まって作業をしていても、その現場では全員が同じルールのもと作業を進めることが多いと思います。そうしなければ、作業が非効率になってしまい、また法令や規則を遵守するための管理が行き届かなくなってしまうためです。

合理的な理由がある場合には、元請業者と下請業者が同じ始業時間・終業時間・休日として労務管理を行い、また同じ服務規律や安全規律を設けることも適法とされているのです。

このような建設現場では、元請業者の従業員であっても、下請業者の従業員であっても共通のルールに従う必要があるため、下請業者の従業員だからといって直接指示してはいけないとはされません。

むしろ、作業効率や安全管理のためには、元請業者の定めたルールに下請業者の従業員も従わなければならないため、その指示を行う人は元請業者でないと不都合が生じる可能性もあるのです。

判断に迷うケース④緊急の必要性がある場合

災害が発生した場合など特段の事情が生じた際には、まずその状況から安全に回避する必要があります。

そのためには、元請業者か下請業者かの違いよりも、現場で安全を確保するための指示が出せる人に従うことが優先されます。

もちろん、その緊急性がなくなり安全が確保された段階では、元請業者が下請業者の従業員に直接指示を出すことはできなくなります。

違法と認定された場合の罰則

ここまで、建設業の労働供給は違法であると説明してきました。

それでは、もしほかの事業者に対する労働供給であるとして摘発された場合、どのような罰則があるのでしょうか。

刑罰

建設業者が建設業について労働者供給や労働者派遣を行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

また、建設業に該当しない事務処理や工程管理などの業務について無許可で労働者を派遣していた場合にも、同じく1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることとなります。

また、法人の代表者や代理人・使用人、個人事業主の代理人・使用人が同じく違法行為を行った場合は、その法人や個人事業主に100万円以下の罰金が科されることとなります。不起訴処分となった場合は、建設業許可の欠格要件には該当しません。

ただし、許可の取り消しにはならなくても、監督官庁から営業停止処分を受けることはあります。

また、個別の事情から特に重い処分が必要と判断されると、不起訴処分となった場合でも建設業許可を取り消される場合があります。

いったん建設業許可を取り消されたり刑罰を受けたりした場合には、それから5年間は建設業許可を取得することはできなくなります。

建設業許可に関する処分

建設業者が刑罰を科されると、その内容に関わらず建設業許可の欠格要件に該当するため、建設業許可を取り消されます。

刑罰を科されるとは、懲役刑の実刑を受けた場合だけでなく、罰金のみの場合や執行猶予が付いた場合も含まれます。

その他

刑罰や建設業許可の取り消しを受けなかったとしても、法令に違反したという事実は残ります。そのため、取引先に対する信頼は大きく損なわれてしまいます。

また、特に大企業との取引を行う必要がある場合には、下請け・孫請けなどの取引形態であっても、元請企業のコンプライアンス上、取引が認められないということが考えられます。

その結果、営業活動は問題なくできるが仕事がないという状況に陥ってしまう可能性もあるのです。

違法であるとして摘発されることのないよう、細心の注意を払いましょう。

まとめ

ほかの事業者と同じ建設現場で、協働して建設工事にあたることは珍しいことではありません。また、人手不足となっている状況で、お互いに労働力を融通し、一時的に足りない人手をカバーしあうことも考えられます。

しかし、一時的なものでも労働供給に該当すると判断されれば、その罰則は重く、場合によっては営業停止や建設業許可の取り消しという事態にもなりかねません。

また、建設業に該当しない業務であっても、無許可の派遣とみなされれば別の罰則を受ける可能性もあります。

基本は請負契約を結び、自社の従業員は自社の監督下に置くことです。

自社の従業員の管理をしっかり行うことは、ほかの事業者との関係だけでなく、会社と従業員との関係においても重要なこととなります。

忙しいからといって従業員の管理をおろそかにしないことが、違法行為を行わないための第一歩となるのです。